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沖縄の一部地域でのみ生産されている芭蕉布は、幻の織物ともいえるほど希少性の高い生地です。天然素材・天然染料を使った上で、全行程を手作業で行います。
技術が失われかけたときもありましたが、現在では国の重要無形文化財にも指定されている伝統工芸品の一つです。
この記事では芭蕉布の概要や歴史、作り方などを詳しくご紹介します。また芭蕉布の魅力やお手入れ方法などについても解説するため、ぜひ参考にしてください。
芭蕉布とはどういった物?
芭蕉布とはバナナの仲間である「糸芭蕉」から作られる「幻の布」とも呼ばれる織物です。自然なベージュ色と、天然染料で描かれる沖縄らしい独特の柄が特徴として挙げられます。
沖縄県と奄美群島の特産品であり、沖縄県大宜味 (おおぎみ) 村喜如嘉 (きじょか) が生産地として特に有名です。1974年には喜如嘉の芭蕉布が、国の重要無形文化財に指定されています。
芭蕉布は高温多湿な気候にマッチした薄くて軽い織物として、かつては日常着から晴れ着まで広く使われてきました。近年はライフスタイルの変化に対応して、クッションやネクタイなどの小物も作られています。
一時は生産量が落ち込んでしまった歴史もありますが、戦後に有志の活動により沖縄の伝統工芸品として広く知られるようになりました。現在は限られた地域でしか生産されていないこともあり、希少性の高い織物としても注目されています。
芭蕉布の歴史とは
沖縄での芭蕉布の歴史は古く、13世紀頃には織られていたとされています。ここでは15世紀に成立した琉球王朝との関係や明治以降の出来事などをもとに、芭蕉布の歴史について見ていきます。
琉球王朝時代
琉球王朝とは15世紀に現在の沖縄県周辺に成立した王国のことです。16世紀以降には中国や江戸幕府への献上品として、芭蕉布が用いられていたという記録があります。
また当初は、主に上流階級の衣服の素材として使われていました。なお専用の芭蕉園を管理するための「芭蕉当職」という役職が設けられていたほどです。
明治から昭和初期
明治から昭和初期にかけて、芭蕉布は上流階級だけでなく庶民の普段着としても愛用されるようになりました。
なお芭蕉布の原料となる糸芭蕉は、当時の沖縄では山に自生しているだけでなく、各家庭の庭や畑にも植えられている植物でした。そのため、自宅にある織り機で女性が副業として芭蕉布を作ることは、一般的な光景だったといわれています。
しかし、第二次世界大戦による人手不足などをきっかけとして、芭蕉布作りは衰退し始めます。特に戦後、沖縄に駐留したアメリカ軍が蚊の繁殖を防止するために、糸芭蕉を伐採したことは大きな打撃となりました。
生産量は大きく落ち込み、芭蕉布作りは危機に瀕したといわれています。
平良敏子さんによる復興
戦後、芭蕉布の復活の立役者となったのが平良敏子さんです。1921年に大宜味村喜如嘉で生まれた平良さんは、勤労女子挺身隊として戦争中に倉敷の工場で働いていました。
戦争が終結し、故郷の沖縄に戻ろうとした平良さんに声をかけたのが倉敷紡績の大原総一郎社長です。民藝運動に熱心だった大原社長がきっかけで織物を学んだ平良さんは、帰郷して芭蕉布の復活に尽力することになります。
なお平良さんは芭蕉布を着物だけでなく、日常的に使いやすい小物などに加工して人々の認知度を高めることに成功しました。また平良さんの作品がさまざまな品評会などで入賞したことにより、芭蕉布は伝統工芸品としても全国で知られるようになっていきます。
2000年に喜如嘉の芭蕉布保存会の会長だった平良さんは、国の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
2022年に亡くなるまで、作品作りや後進の指導に熱心に取り組んでいたといわれています。現在、沖縄に芭蕉布の技法が残っているのは、平良さんの活躍によるところが大きいといえるでしょう。
芭蕉布の作り方
芭蕉布ができるまでには多くの作業を行いますが、ここでは大きく4つの工程に分けて芭蕉布の作り方をご紹介します。
工程1:糸芭蕉の栽培・収穫
芭蕉布を作るにはまず、原材料となる糸芭蕉が必要です。糸芭蕉を植えてから繊維が採取可能な状態になるまでには、3年程度かかります。
雑草を取ったり剪定したりなどの手入れをしつつ、丁寧に育てていきます。糸芭蕉の栽培・収穫は、天然素材を使用する芭蕉布ならではの工程といえるでしょう。
なお糸芭蕉の繊維に関しては、中心部に行くにつれて柔らかくなる性質があります。そのため年に3~5回、葉と芯を切り落として、根と先端の太さを合わせることも柔らかい繊維を取るために大切な作業の一つです。
糸芭蕉が成熟したら繊維を取ります。熟しすぎると繊維が固くなるためタイミングが重要です。1本の糸芭蕉から取れる繊維の量は20g程度であることから、1反の布を織るには200本の糸芭蕉が必要とされています。
工程2:糸づくり
「苧(うー)」と呼ばれる糸芭蕉の繊維を煮て、糸を取り出しやすくする工程が苧炊き(うーだき)です。車輪梅などの木の灰汁を加えて、程よい固さになるまで煮たら水で洗い、苧引き(うーびき)の工程へと移ります。
苧引きとは煮た苧を竹のはさみでしごき、繊維を取り出す作業のことです。固い繊維は経糸に、柔らかい繊維は緯糸に使用できるよう分別する工程も含まれます。
日陰で干した繊維を2~3本ずつ、こぶし大の球(チング)に巻いたら、いよいよ糸をつなぐ苧績み(うーうみ)と呼ばれる工程に入ります。
小刀と爪、指先を使い丁寧に繊維を裂いて糸状にする作業には熟練の技が必要です。全工程の中で最も時間がかかる工程です。苧績みでできた糸は撚りをかけて整経され、染色の準備に入ります。
工程3:染織
絣模様の図案に沿って、染めない部分を糸でくくったら10日間ほどかけて発酵させた藍で染色します。染料は主に、相思樹と琉球藍を使うのが伝統です。
工程4:手織り
芭蕉の糸は乾燥すると切れやすいため、湿気を与えつつ織るのがコツです。手作業で丁寧に織りあがった布は灰汁で煮立てて柔らかくし、数回の洗濯を行って汚れなどを取り除きます。
洗った反物は縮むため、両端から引っ張る布引を行って本来の寸法に戻す作業も必要です。さらにアイロンがけで湿気を取り除くといった仕上げの工程を経たら、芭蕉布の完成です。
天然素材である芭蕉布は乾燥で切れやすくなることから梅雨の時期に作業を進め、約2ヵ月かけて1反ができあがるといわれています。
芭蕉布の魅力や希少性
芭蕉布は希少性が高く、独特の魅力がある織物です。ここでは芭蕉布の魅力や希少性についてご紹介します。
芭蕉布の素材の魅力
芭蕉布の魅力としてまず挙げられるのが、軽くて風通しがよいことです。薄くて軽い芭蕉布は、トンボの羽に例えられることもあるほどです。
またハリがあり、肌にまとわりつきにくいことから、高温多湿の沖縄の気候に合う素材として愛されてきました。江戸時代に本土で知られるようになってからは、盛夏の時期に着る着物の素材としても広まっています。
さらに沖縄で生まれた芭蕉布は、独特のデザインも魅力の一つです。特に喜如嘉の芭蕉布に関しては、シンプルでナチュラルなデザインと色使いを特徴としています。アキファティ柄やクヮーサーハナアーシ(花柄)などが、芭蕉布の定番の柄です。
なお芭蕉布は、着物や帯だけに使われる素材ではありません。自然なベージュ色やサラリとした肌触りを活かした座布団、クッション、ポーチといった小物やネクタイなどが作られています。芭蕉布に関心がある人は、使いやすい小物類から試してみるのもよい方法といえるでしょう。
芭蕉布の希少性
生産量が限られていることから、芭蕉布は希少価値の高い生地とされています。糸芭蕉を育てるところから芭蕉布作りが始まるといわれているように、天然素材・天然染料を使う芭蕉布は完成までに長い時間がかかります。また全ての工程が手作業で行われるため、大量生産もできません。
かつては日常着としても着られていた芭蕉布でしたが、綿や絹などのより加工しやすい素材が普及したことで生産は衰退してしまいました。
戦後に復活を遂げたものの、近年の芭蕉布の生産地は一部地域に限られており、生産量は1年間に120反程度といわれています。
復活の過程で芭蕉布は国の重要無形文化財にも指定され、工芸品としての価値が認められるようになりました。一方で、技術者の高齢化や後継者不足などの問題もあるため、今後も芭蕉布の希少性の高い状態は続くと考えられるでしょう。
芭蕉布のお手入れ方法とは
植物性の素材で作られている芭蕉布は、乾燥に弱いという性質があります。繊維が切れてほつれの原因になることもあるため、保管する際は乾燥剤の使用は避けましょう。
また虫食いを防ぐために、ウールのような虫が付きやすい素材の着物などとは分けて保管することも大切です。
加えて、シワが付きやすいことも芭蕉布の性質の一つです。着用後は軽く霧吹きで湿らせて、手でシワを伸ばすときれいな状態を保ちやすくなります。
長期間にわたって保管する場合は、丸洗いと汗抜きをしてから収納しましょう。自宅で洗うことも可能ではありますが、自己流のお手入れで生地を傷める恐れもあることから、購入した店舗や取り扱っている店舗などに相談することをおすすめします。
まとめ
芭蕉布とは希少性の高い織物です。暑い夏でもサラリと着られることが特徴として挙げられます。人気がある一方で天然素材を使用している、かつ手作業で作られていることから大量生産ができません。
なお、もし自宅にいらなくなった芭蕉布の製品やそのほかの織物・着物などがある場合は、買取してもらうことを検討しましょう。おお蔵は着物や織物などの買取実績が豊富な買取店です。査定料無料のため、ぜひお気軽にご相談ください。
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